奇妙なお爺さんは  浮浪者のような風体をし 時折金色に点滅しているので  この(穏やかな)街の中で異常に浮いていた。彼が通った道には蛞蝓が這ったあとのように湿った跡がつくため 人々は彼がどこへ立ち寄りどこへ向かい どこに居るのか すぐに知ることができた
奇妙なお爺さんは常に独り言を言い 物を獣のように食べたかと思えば断食の真似事をし 道端で寝 かと思えば街にただひとつある 小さな駅の周りを延々歩き回ったりしていた 

昼間から酒を飲み 鳩を羨ましがったり 

街のはじめの頃 そして今でもたまに 彼を奇妙に思い 石を投げたり 水をかけたりする輩がいる   そうすると奇妙なお爺さんは 反撃こそしないものの うーっ うーっ と唸り声を上げながらぐるぐる回ったり 突然嘔吐したりする  その奇妙な姿を危うく(または可哀想に)思い 、そういったことを辞める人間がほとんどだった

このように 奇妙なお爺さんの奇妙さ は枚挙にいとまがない  とはいえ街の人々はそれぞれ忙しいため  彼の一日の行動  生態を全て知る人はいなかったのだが、自分が目にしていない時も奇妙な生活をし 時折金色に光っているのだろう と誰もが思っていた

水中時折光る爺それでも線を引く奇妙さ


奇妙なお爺さんと私が出会ったのは真夏の線路の上であった。私は非常に目が悪いので、裸眼では周りが水中のように滲み自分の手のひらぐらいしかはっきりと見えないのだが、今年六本目の眼鏡をその日失くし、途方に暮  を通り越してもはや何も感じていなかった。そして、私の街  この穏やかな街の たったひとつの小さな駅の  線路の上につっ立っている人に 何も考えず声をかけたのだ。
そこ 危ないですよ。
正直なところ、ゆらゆら滲む水中と、そこに立ち上る陽炎のおかげで、それがかろうじて人間であることしか私にはわかっていなかった。その影が  奇妙なお爺さん  であることがわかっていたら、私は声をかけていただろうか。 ともかく 私の声を受けて  彼はこちらを振り向いたのである。そして言う。
ふがふが
現実でそんなことを言っている人を初めて見た、私は聞き間違いだと思い、そのまま歩き出す。五十メートルほど離れてからなんとなく振り返った時、影が金色に点滅したように見えたので、そこで初めて ようやく私は その影が奇妙なお爺さんであることに気づいたのだった。


つづくな