7/20 さんぽ
7/21 アイス 
7/22 
7/23 人と話す
7/24 光
 
 
 
 
 
 
友達に
 
夢の前日
沖縄県西表島の西端に、五十人足らずが暮らす小さな集落がある。舟浮という名の通り、陸路は無く、船でしか行くことができない。
 
この集落に学校は一つしかない。子どもの数は私を入れて十人。五年生と中学二年生が二人で、あとは各学年に一人ずつ。四年生はいない。
中学生までここで勉強したあとは、寮のある本土の高校に進学して出て行く子がほとんど。中には、家を手伝うためにここに留まる子もいるけど。
科目によっていくつかの学年に分かれて授業を受けるけど、体育はみんないっしょ。ひとりじゃ、チームが組めないから。
ここにはいろんな子がいる。この集落で生まれ育った子もいるし、本土や、東京から来た子なんかもいる。みんな詳しくは話さないけど、何かあった子もきっといると思う。
私もここに来てしばらくは、前の学校の友達からパソコンにメールが届いていた。でもそれも、そのうち返ってこなくなった。
前の場所で、お母さんは随分苦労したみたいだった。私自身は、多くはないけど友達もいたし、楽しくやっているつもりだった。でも、たぶん、私はいろんなことをうまくできなかった。
「少しのんびりしたところに行きましょう」と、 お母さんが言ったのは二年前、私が六年生になる少し前だった。
 
そうして私はここで、中学生になった。
中学の授業を主に担当するのは、半年前にこの学校に赴任してきたばかりの女の人。
三人しかいない先生のうちのひとり。
 
先生はどうしてここに来たの?
仕事だもの。
 
どんなに海がきれいでも、どんなに山が青くても悩んでるの バカみたいに
あなたも、私だってそうだもんね。
 
私はその日先生と、船着場を歩いた。
先生の長い髪が、海風に吹かれて流れていく。
唯一の民宿の軒先に吊るされた青い干し網かごが、ついさっきのスコールに濡れて光っている。
二匹の蝿が、中の干物を狙うように飛び回っている。
「蝿がこんなにでっかいのも、急な雨も、慣れたよね。おみそ汁にヤドカリが入ってるのもさ」
「はじめは本当にびっくりしたけど」
「歌があるじゃん、ここも同じ名前なのに、町だけど」
「旅を続けていればこそ…」
先生が歌った。
「先生、本当に行くの?」
「仕事だもの」
ここにいればいいのに。
あと一年半待てば、私だって本土の高校に進学することになる。そうしたらまた先生に会えるかもしれないし、そうはならないかもしれない。
ここには海があって、山があって、全てがある。何かが失くなったり、足りなくても、私はずっと気づかないだろうから。