煙たい手向け

 

 

そうなのだ

 

 

君はいつしか紫の雨の中に浮かぶ教会の扉の隙間から聴こえた激しい歯軋りで織り成される奏鳴曲(ソナタ)を忘れてしまって

ゲームセンターの隅の暗い照明は今日も煙に噎せて点滅していた。

君が両手を柵に置いてDDR(注:1998年下期に登場したコナミのアーケード型音楽ゲームダンスダンスレボリューション)に興じている間も、僕はしっかりそれを見ていた。重厚な肉体が普段からは考えられない軽やかさで動き、汗を飛ばして硬い床を踏み抜いた。その際、宇宙が誕生した。

夕立に置いていかれた犬のようだ。勿論それは褒め言葉だ。あの子の煙草はまるで手向けのように君を祝っている。二度と僕には見えない美しい紫の雨。私が嫌いなラーメンの湯気であなたの眼鏡が曇り、ひび割れた。そして今も失明したまま生きている。